技術資料
■珪酸ソーダの製法

製法には、熔融法と直接法の二方法があります。

熔融法
熔融法とはケイ砂とソーダ灰(Na2CO3)を高温(約1200℃)で熔融して一旦ガラスにし、 そのガラスを水に溶解する方法です。当社では熔融法により、硅砂より液体珪酸ソーダ・ 結晶性珪酸ソーダを一貫生産しています。

直接法
直接法とはガラスを製造しないで、粉末硅砂又は可溶性シリカを苛性ソーダにより溶解缶で溶解させ直接珪酸ソーダを溶液を製造する方法です。


■珪酸塩の性質
a.珪酸塩無水物

i ) 融点
アルカリ金属酸化物(M2O)とSiO2の二成分系の融点の相平衡図は次のようになっています。

(T)2LiO2・SiO2
Field
(Z)Na2O・2SiO2
Field
(]]T)Quarz
Field
(U)Li2O・SiO2
Field
([)K2O・SiO2
Field
(]])Tridimite
Field
(V)LiO2・2SiO2
Field
(\)K2O・2SiO2
Field
(]\)Cristobalite
Field
(Y)Na2O・SiO2 
Field
(])K2O・4SiO2
Field
 

この図からオルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、二珪酸塩、珪酸カリウム系では他にテトラ珪酸塩の結晶の存在を示しています。これらの結晶はナトリウム塩の場合モル比1.2以下の低モル比 の状態で急速に結晶化が進むのであってそれ以上のモル比ではその結晶化は非常に緩慢でありそのため現実に製造しているガラスは上記の表の様な明確な融点を示しません


ii) 現実の珪酸ソーダ、珪酸カリガラスの軟化点、流動点を次の表に示します。

珪酸ソーダ、珪酸カリのガラスの軟化点、及び流動点

モル比
SiO2/M2O

SiO2

M2O

軟化点

流動点

珪酸ソーダ
3.87
79.0
21.0
665
870
3.33
76.3
23.7
655
840
3.00
74.4
25.6
640
825
2.48
70.6
29.4
615
790
2.07
66.7
33.3
590
760
1.65
61.5
38.5
565
730
1.00
49.2
50.8
1089
珪酸カリ
3.92
71.4
28.6
690-740
910
3.30
67.7
32.3
690-740
890

軟化点 − 粘度 4 × 10の7乗 P
流動点 − 粘度 10の5乗 P


b.珪酸塩水溶液

i) 珪酸イオンについて
珪酸塩水溶液での珪酸イオンは六配位であってモノマー、ダイマー、トリマーそれ以上の ポリマー、それにコロイダルなイオンミセルがあり、夫々の割合は、濃度、モル比 (SiO2/M2O)、陽イオンの種類により変化します。メタ珪酸塩、或いはそれより低モル比の水溶液ではモノマーが大部分を占めています。 ポリマーイオン濃度はモル比の上昇により増加します。 光散乱法によって測定された珪酸イオンの重量一平均分子量は次の様に報告されています。


各モル比に於いての珪酸ソーダ、珪酸カリの重量平均分子量
珪酸ソーダ(SiO2/Na2O)
珪酸カリ(SiO2/K2O)
モル比(SiO2/Na2O) wt av moi wt in Soin モル比(SiO2/Na2O) wt av moi wt in Soin
0.48
60
1.00
56
1.01
90
1.75
115
1.69
120
2.50
295
2.09
160
2.80
304
2.62
265
3.31
495
3.30
320
3.62
620
-
-
3.97
848

オルソ、メタ珪酸ソーダは水中で次の様に解離していると思われます。

オルソ珪酸ソーダの場合
@Na4SiO4 + H2O → Si(OH)6 + 4Na + 2OH

メタ珪酸ソーダの場合
@Na2SiO3 + Si(OH)6 + 2Na
ASi(OH)6 ⇔ Si(OH)4 + 2OH
B2Si(OH)4 ⇔ (H.O)3  − Si − O − Si(OH)3 + H2O
           (二重体)
となり少量の二重体も存在すると思われます。
次いで陽イオンの影響としては次の様な現象があります。
Na+の場合
 モル比が4.0以上、SiO2濃度が10%以上では、不安定でゲル化し易い
K+の場合
 モル比4以上でSiO2濃度が10%以上では粘性が急激に上昇
Li+の場合
 モル比8、SiO2 20%でも室温では安定(高温では不安定)であり粘性も低い

以上の様な現象は水和された陽イオン半径によるものと思われる。
各陽イオンの性質は次の表にしめす。

水溶液中で配意数6のアルカリ金属のイオンの比較
 
Li
Na
K
Rb
Cs
イオン半径A°
0.60
0.95
1.33
1.48
1.69
水和イオン半径A°
3.40
2.76
2.32
2.28
2.28
hydration number
25.3
16.6
10.5
 
9.9
hydration energy Kcal/mol
12.3
9.7
7.7
7.0
6.3

ii) 水素イオン濃度(pH)
夫々の珪酸塩のpH価は次の図の様になります。

珪酸塩溶液のpHはモル比が高い程pH価は低下しますが、その緩衝能力は増加します。

iii) 粘度
各種珪酸塩の濃度は下記の図に示します。


iv ) 珪酸ソーダの比重と成分の関係
次の図-4 は20℃に於ける比重(Be’)と重量比(SiO(%)/Na2O(%))との 関係を示しています。これから、Be’、Na2Oの量(%)、SiO2の量(%)の三成分 の中、二つの成分の量を知る事により残りの成分の概略値を得ようとする場合、便利 なグラフとして利用されています。

20℃に於けるBe'は次式により得る事が出来ます。

Be'20℃=Be't°+ 0.04(t°- 20°)



Be'より比重を求める時は次式により得られます。

d = 144.3 ÷ (144.3 - Be')

Be' = 144.3 - (144.3 / d)


v) 各珪酸塩の濃度、比重、粘土、pHの値を書きにとりまとめました。


Na-Silicate

重量比
(SiO2/Na2O)

モル比
SiO2/Na2O

Na2O
SiO2 
d20(比重)

ViS
(20℃c.p)

pH
1.6
1.65
19.5
31.2
1.68
7,000
12.8
2.0
2.07
18.0
36.0
1.69
70,000
12.2
2.5
2.58
10.5
26.3
1.41
50
11.7
2.9
3.00
11.0
31.9
1.49
960
11.5
3.22
3.33
8.9
28.7
1.39
180
11.3
3.75
3.88
6.8
25.5
1.32
220
10.8

K-Silicate

重量比
(SiO2/K2O)

モル比
SiO2/K2O

K2O
SiO2
d20(比重)

ViS
(20℃c.p)

pH
2.50
3.92
8.3
20.8
1.26
40
11.30
2.20
3.45
9.05
19.9
1.26
7
11.55
2.10
2.30
12.5
26.3
1.38
1,050
11.70
1.80
2.83
16.4
29.5
1.49
1,300
12.15

Li-Silicate

重量比
(SiO2/Li2O)

モル比
SiO2/Li2O

Li2O
Na2O
SiO2 

d20
(比重)

ViS
(20℃c.p)

pH
9.4
4.7
2.2
20.7
1.17
9.6
4.8
2.1
20.0
40
11.0
11.8
5.9
1.6
18.8
1.18
17.0
8.5
1.2
20.0
25
11.0
Sio2/Li2O+Na2O
SiO2/Li2O+Na2O
6.5
4.1
1.8
1.2
19.6
1.19
10.7

■珪酸塩水溶液と他の化学薬品との反応

@酸類
珪酸塩溶液に無機酸、有機酸を加えますと何れの酸でも珪酸が析出します。これは水酸基イオンによって安定化されていた珪酸が、酸によりOHがH2Oに 変化し、珪酸イオンが縮合して、水に溶解出来なくなって析出します。この様にして析出する珪酸ゲルに性質は珪酸イオンの濃度、湿度、pHにより 変化します。右の図は珪酸ソーダを硫酸で中和した時のゲル化時間を表したものです。

ACa,Mg,Al …二価以上の金属塩
上記の各塩類は珪酸塩溶液と反応して各金属の水酸化物、珪酸ゲル、珪酸金属の沈殿を生じます。又アルミン酸ソーダ(NaAlO2)と珪酸イオンとの反応により生じた ゲルを水熱反応させる事により微小な結晶としてゼオライトが合成出来ます。 これはイオン交換剤として、又吸湿剤として利用されます。

 

B水と混合可能な有機溶剤との反応
珪酸塩溶液はメタノール、エタノール、アセトンetcによって珪酸塩が析出します。これは上記の有機物の脱水作業によるもので、 それに水を加える事によって珪酸塩は再び溶解します。多価アルコール例えばグリセリン、砂糖、ソルビトール等は 珪酸塩溶液 と混合する事が出来ます。

Cアルミニウム、亜鉛、金属シリコン、フェロシリコン、金属水素化物例えば LiAlH4、NaBH4等の粉末は珪酸塩溶液を水に不溶化させます。